「ある青カンの葬儀」…形式に囚われた己を恥じる

 ふと、昔のことを思い出した。
 青カンの隣りにいた頃のことである。いや、まだ隣りにいたとも言えない「同一線上にあるその世界」に恐る恐る近づこうとしていた初期の頃のこと。古すぎて細かくは思い出せないし、もしかしたらその世界でのいくつかの記憶が混ざっているのかもしれない。ただ一つ、自分を恥じ入たことだけは忘れられない。

 ある青カンが死に、葬儀がおこなわれた………

 青カンが死ぬと、どうやって調べるのだろう、警察かお役所によって遺族が調べられ連絡される。
 連絡される遺族は、果てしなく遠い地方のこともあるし、案外地元のこともある。
 青カンをしていたと知っていた家族も、知らなかった家族もある。
 青カンをしていたという事実に驚き、涙とともに遺体が引き取られることも、また別のときは「そんな人は知りません」と電話が切れることもあると聞いた。
 また、当然のことながら警察によっても調べられない(所謂)「無縁仏」もいて引き取り手のない遺体になる。
 きっと本名さえ解らなかったのだろう。
 
 そのとき死んだ青カンは、皆にとっつぁんと呼ばれていた。
 人懐っこいおっさんで、支援やまわりの青カン仲間にとっつぁんとっつぁんと呼ばれて好かれていた。
 ワタシも何度か話した事があるが、まだその世界に馴染むまでにはいっておらず、とっつぁんもたまに顔を見て知っている程度だった。
 ある朝、そのとっつぁんが死んだと連絡が入った。
 仲間がとっつぁんの「小屋がけ」を訪ねると既に冷たくなっていたらしい。
 救急搬送されても、治療されることもなかった。
 その後、とっつぁんの遺族も探されたが見つからなかった。
 おそらく支援も仲間も…、誰もとっつぁんの本名も出身地も知らなかった。それとも誰か知っていたのかな。
 結局支援と青カン仲間で葬式をすることになった。お金がなくても役所に葬祭扶助の申請をすると、普通の葬儀会館で必要最低の葬儀をあげることができる。その福祉を利用することになったらしい。
 まだ駆け出しのワタシにも会館の場所と葬儀の時間が知らされ、出掛けることにした。

 かたちばかりの菊が申し訳なく飾られた狭い部屋に、多くの人が集まっていた。
 支援も青カンのおっさんたちも……、皆、小汚い普段着で。
 まったく統一性のないいつもながらの見慣れた服。
 ひとり喪服を着たワタシは完全に浮いている。と、すぐに解った。
 ひとりだけ小ぎれいな喪服。
 「しまった」、誰も喪服なんて持ってる訳なかった。
 ましてや香典なんか……。
 恥ずかしさを誤摩化すように上着を脱ぎ、黒のネクタイを外した。
 背もたれに掛けられた上着の内ポケットに入れた香典の封筒が見えてないことを確認した。
 それでも白のワイシャツと黒のズボンという目立った。
 葬祭扶助の葬式なんて坊さんも呼ばない。
 ただ、場所と僅かな菊と棺が用意されるだけ。
 受付も記帳もない。誰もそんなことはしない。
 ただ、とっつぁんに別れを言いに来ただけ。
 皆が思い出を語りあい、死んだとっつぁんを偲んでいた。
 ただ、身を寄せ合い死んだとっつぁんのもとに集った。
 ワタシも先輩の支援に声をかけられたり、顔見知りの青カンにとっつぁんの思い出を話しかけられた。
 ワタシはドギマギしながら頷いていたが、話に夢中になったおっさんは、白いシャツも筋の入ったスラックスにも目線を移さなかった。ワタシの目をみて必死で死んだとっつぁんのことを話そうとしていた。
 誰もワタシ一人が喪服で浮いていることさえ気づいてなかった。
 そんなことは、誰も気にしてはなかったのだ。
 そこには、誰が何を着ていようと気にする奴はいなかったのだ。

 そう、ワタシ一人を除いて……。

 と、こんな感じの記憶。
 デテールは思い出せないが、自分を恥じたことは深く刻まれている。

 
 
 
 

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この記事へのコメント

介護員
2008年10月03日 17:43
何か悲しくって、でも温かい話し
2008年10月03日 18:10
最近「おくりびと」という映画を見ました。これは高い金を使って「納棺の儀」をする人の話ですが、それでもこの職業は偏見で見られている。でも、そのあまりにも洗練された「気持ちのこもった」儀式を見るうちにそういう偏見は解けて、きれいに送ってくれたことに感謝の念が生じるのです。
厳粛な死の前では、みんな自然と一番大事なところに関心が行くのかもしれません。
2008年10月04日 07:44
恥じるコトなんて全然ないと思ったな~。
兄さんは喪服を着ていける状況(持っている)だったわけで、ご自分の中で精一杯の礼を尽くそうとされたんだよね。名前も知らないその方に対しても。

その兄さんの、自分の仲間への気持ちをうれしく思った人たちも多かったんじゃないのかなぁ。私はそれでよかったと思うな~。兄さんは「普段通り」にしただけだもの。それぞれの立場で関わっている、ということは、ステキなことだと思う。^^
dr.stonefly
2008年10月04日 09:55

>介護員さん
この前はなんだか偉そうなレス書いてしまいましたね。ごめんなさい。
なんだかね、ドン底に落とされているなかで他人の葬式をやろうっていう人々の気持ちは温かいのかもしれませんね。


>kumaさん、おひさしぶりです。
>厳粛な死の前では、みんな自然と一番大事なところに関心が行くのかもしれません。
ワタシ自身はまだ「厳粛な死」を感じたことがありません。
だからかな、一番大事なところ、ってのも実感がないんです。
そうこうしているうちに「死」そのものについて考えてしまって、ほんとうに他人の死で「一番大事なこと」が解るのかも、解らなくなってます。
まだ未熟なんでしょうね。


>水葉さん
そうなんです。そうなんですけどね、「それぞれの立場で関わっていて喪服であるという恥じなくてもいいことを恥じた」そのことが恥ずかしいわけで……。
しかも、本当に精一杯の礼だったかというと、そういうもんだという固定観念がさせただけで、怪しいものです。
でも水葉さんの、ステキなことだと思う、ってのは素直に受け取っておこ。
ありがとう。

kuroneko
2008年10月08日 18:48
むかしは喪服なんてそんなに持っていなかった、という話をTBしようかと思って、やめてコメントにします。
 喪服は相手への敬意だから着ていったのはいいと思うけど、場違い感覚てのは感じちゃいますよね。
 わたしは大学一年の時の夏、教養課程数学Ⅱの先生が急死して、友達とお線香を上げにいったのですが、紺のポロシャツで、ラフすぎる格好だったかな、と後からやはり気になったことをウン十年たっても覚えています。学生のことで黒のスーツなんて持っているわけないから、どんななりがいいかはわからないけど。高校生の時なら制服を着ていけばいいんでしょう。まあ、ポロシャツは愚かだったですね。高校の夏の制服と同じようなシャツにすればよかったのかな。

 たとえば仮に市の職員さんなんかが業務かたがた参列したなんて場合は、スクエアな格好しているほうがふさわしいでしょうし、喪服だからういているってこともないと思う。でも着ているほうは気になってしまいますね。
dr.stonefly
2008年10月09日 09:35
アニさん、おはようございます。
>着ているほうは気になってしまいますね。
着るものを気にしている自分が未熟だな、と思います(笑)。でもまた着ていくんだろうな。

>喪服は相手への敬意
ってのの、相手ってのは遺族ですよね。
遺体じゃないですよね。
葬式ってなんでやるんでしょうね。
自分のためにやるのかな?
主人公の本人はいないわけですから……。
不思議です。
そも、敬意ってのも、なんだろうって考えちまいます。
でも、こういう本音に目をつぶって世間に合わせているんですが……
2008年10月10日 00:42
>喪服は相手への敬意
ってのの、相手ってのは遺族ですよね。

いや、遺族じゃなくて、遺体でもなくて、その人なんじゃない?

死んじゃったから居ない、といっても、他の人の記憶はまだあるわけだし、関係性は強くある。それに、居ないとしても敬意は払える。

わたし、けっこう神社仏閣でナムナムするの好きなんですが、手を合わせているとき、虚無に礼拝しているのかも知れず、虚無だからこそ礼拝しているのかもしれないな、と思います。
dr.stonefly
2008年10月10日 08:32
>遺族じゃなくて、遺体でもなくて、その人なんじゃない?
ですよね。
ワタシがよく書く「魂」ってやつ。
でもさ、なんとなく「魂」ってやつは、この世的な身体とか敬意なんてもんから脱皮してしまっている気がして、喪服なんて形式のもんなんて眼中にないんじゃないんかなぁ、と勝手に思ってます。
さらに、その「魂」ってやつは、アニさんがいうように、それぞれの記憶とか気持なんかの「魂」と同化してしまっていて、オイラの個人的な「魂」からするとますます喪服から離れていく(爆)。

では、何故喪服を着るのかと言うと、世間体というか、遺族への気遣いかな、と思った次第です。

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