「保育園民営化訴訟」勝ったけど……

 保育園の民営化により、子どもの心が傷ついたと「性急に民営化」した横浜市を相手取り訴訟をおこした保護者が全面勝訴した、という記事が目に入った。
 子どもたちのために訴訟に踏切り、苦労し、勝訴された親に「お疲れさま、おめでとうございます」といいたい。この勝訴は全国で「保育園民営化」に反対し闘う親に、希望を与えたことは言う迄もない。が、これが本質的勝利なのだろうか……

 全国各地で進められている「保育園民営化」の「説明会」で「行政」は一貫して「形式的な根拠だけを理由」に「問題ない」という発言を繰り返している。もちろん行政は「お役所仕事的」に保育現場での「子どもたちが醸し出す微動する空気」が解らないままに「ハード面(設備、保育士の人数)」で「問題ない」と繰り返しているに過ぎない。よって、「説明会」でも「親・保育士」と「行政」は平行線のまま噛み合うことがない。最終的に行政のごり押しで公立保育園が切り売りされる。しかも「保育園に微動する空気」を無視し、この裁判に踏み切った保育園のように、「子どもたちのことは全く考えず」お役所のスケジュールにあわせ売られているのが現状である。
 このように「説明会」で行政は「決まったこと」として話を進められる。「切り売り」も「スケジュール」も決定事項として「説明」する。行政は親の疑問や不安に応える気がない。「説明会」も形式的なものとして設定されているのが現状だ。このことも判決要旨で「本件民営化は大方の保護者が承諾しているとは言いがたい状況だった。保護者が態度を硬直させた理由は、横浜市が民営化を行政的な決定事項で変更できないと対応した点にある。」と引き出したことに大きな意味がある。

 この保育園の民営化が非常に「問題あり」だったことが、裁判に踏み切った保育園の「子どもの犠牲」のうえで実証された。「園児が顔見知りの保育士を探して保育園から抜け出したり、夜泣きや昼寝時におねしょをし始めるなど精神的に不安定になったり」と「問題」は大いにあり、裁判で勝訴という結果は当然といえる。
 それに対し、「市の比江島勝秀子育て支援部長は「承服しがたい判決だ。控訴したいが、慎重に検討したい」と述べた」らしい。一方で「少子化対策」などと叫でいるだろう「子育て支援部長」の言葉だ。許しががたい発言である。判決のどこの部分が「承服しがたい」のか聞いてみたい気もするが、結局「形式的な子育て支援部長」であることが明らかである以上、聞かない方が精神衛生上よいかもしれない。

 さて、この裁判は「勝訴」したが、本質は確認しておくべきである。この裁判の大きな論点のひとつは「引継期間が3ヶ月と短かった」とあるが、では、引継期間に時間をかければ「問題なし」と言えるのか? そうではない。行政が「保育園民営化」を進める理由は、「財政状況の前提」なのだ。あくまで、「財政状況の前提」のなかで「待機児童の解消」やら「多様な保育ニーズ」など後づけの理由でしかない。どこまでも子どものためではないのだ。判決要旨にある「民営化の目的は横浜市の置かれた財政状況を前提として、待機児童の解消を図り、多様な保育ニーズに応えることにあったと認められる。」というのは承服しがたい判決である。行政は、公の責任である「児童福祉」(児童福祉の精神)を、たんに「財政状況」という理由により放棄していることを真摯に考えなければならない。

 さらには、勝訴だ、勝訴だと喜んではいられない。「問題」はこの保育園の生身の子どものうえに起きたのだ。子どものことなど考えていない「行政」であることは、子どもの何人かが身をもって実証したことを忘れてはいけない。特に保育園に通う時期には、獲得すべき発達段階が寸断なく続く。この保育園の子どもたちは、それぞれの時期に獲得すべき「発達段階」を「経済」というしょうもない理由のため犠牲にしたのだ。
 全国各地に点在する「エセ子育て支援部長」の指令によって、犠牲になるのは「子ども」なのである。たとえ自分の子どもが通う保育園が「今は民営化の対象」になっていなくても、こうしたことがまかり通る社会のなかでは「犠牲予備軍」となっていることを覚えておく必要があるだろう。

 国や行政は「金がない」と繰り返すが、「金がない」わけではないことは周知の事実である。「保育園などにつかう金はない」「子どものために使う金はない」ということだ。戦争の準備のため、自然を破壊するため、官僚政治家の私腹を肥やすため……に、金は湯水のごとおく使われる。子ども、老人、病身のもの、障がいを持ったもの……、に使う金はないと言って憚らないのだ。
 しかし、すくなくとも「保育園民営化」でひとつの回答を裁判所がだしたのだ。子どもを持つ親はこの裁判の勝訴を武器に、既に犠牲になった子どもたちのことを忘れず、「子ども」のために間違っていることにはNO!!を言い続けて欲しい。


“「保育園民営化訴訟」(2)本質をつかめ!!”につづく


以下引用


横浜市保育園民営化訴訟:違法判決 急ぐ理由なかった、保護者ら全面勝訴 /神奈川

 ◇市は控訴を検討
 横浜市が04年度に行った市立保育園民営化について「特別に急ぐべき理由があったとは認められず違法」とした22日の横浜地裁判決。民営化の取り消し請求自体は退けられたが、保護者らは「保育は人という訴えが裁判所に届いた。行政側が間違っていたとはっきり示された」と判決を高く評価した。一方、市の比江島勝秀子育て支援部長は「承服しがたい判決だ。控訴したいが、慎重に検討したい」と述べた。
 「原告側の全面勝訴といえる判決」。原告団代理人の海渡雄一弁護士は会見で満足げな表情を浮かべた。さらに「民営化について市の対応が不適切で、保護者が保育所を選択する権利が認められた。市の民営化政策は根本的に見直されるべきだ」と訴えた。
 原告団代表の金道敏樹さん(46)は「民営化は園児の心と体を痛めつけた」と語気を強めた。金道さんによると、民営化後に園児が顔見知りの保育士を探して保育園から抜け出したり、夜泣きや昼寝時におねしょをし始めるなど精神的に不安定になったという。「精神的に不安定な様子を見て、我が子のことを守ってあげられないという無力感が絶え間なく襲ってきた。民営化で保護者も傷つけられた」と怒りを込めて言うと、同席していた保護者からすすり泣きが漏れた。
 一方、市こども青少年局の細谷延副局長は判決について「最善の方法で取り組んできた。保護者に十分説明を尽くしたが、理解を得られなかったのは大変残念。民営化を進めてきたのは間違っていなかった」と強調。
 訴訟の対象となった民営化に伴う引き継ぎ期間は約3カ月。05、06年度は約5カ月に伸びた。細谷副局長は「04年度は市にとっても初めてで、尼崎市などの他の都市を参考に期間を設定した。05年度以降は移管先が早く決まったので、その分だけ引き継ぎ期間が延びた」と説明した。市は弁護士と相談して控訴するかどうか決めるという。【鈴木一生】
 ◇わずか3カ月の間で引き継ぎや共同保育--市と法人
 横浜市は経費削減と多様なサービスの供給などを目的として、04年度から市立保育所を年4園ずつ民営化している。今年度までに計12園が東京都など県外も含む社会福祉法人によって運営されている。現在、市内の公立保育園は114園ある。
 今回提訴したのは、04年4月に初めて民営化された4園の園児の保護者ら。説明会が行われたのは03年4月。同年9~10月にかけて移管先の法人を募集し、11月中旬に正式決定した。民営化までのわずか3カ月の間、市と法人の両保育士による引き継ぎや共同保育が行われた。保護者らは、民営化直前の04年2月に提訴していた。
 横浜市は05年度の分から、民営化の約1年半前に保護者説明会を開き、前年9月中に移管先を決めている。だが、04、05年度分の引き継ぎや共同保育の開始時期などを詳しくは把握しておらず、06年度から引き継ぎ業務の予定を立てるなどの見直しを行っている。【稲田佳代】
………………………………………………………………………………………………………
 ◇判決要旨
 【民営化実施の違法性】
 民営化の目的は横浜市の置かれた財政状況を前提として、待機児童の解消を図り、多様な保育ニーズに応えることにあったと認められる。これ自体は違法と言えない。だが、入所児童がいる保育所を民営化する際は児童と保護者の保育を受ける利益を尊重する必要があり、同意が得られない場合は利益侵害を正当化できる合理的な理由と、これを補う代替措置を講ずる必要がある。
 本件民営化は大方の保護者が承諾しているとは言いがたい状況だった。保護者が態度を硬直させた理由は、横浜市が民営化を行政的な決定事項で変更できないと対応した点にある。民営化に向けた協議の場として予定された三者協議会は設置されず、3カ月の引き継ぎ期間も十分な根拠があるとは言えない。不利益をこうむる児童らが存在することを思えば「多様な保育ニーズに応える」という市の説明は早急な民営化を正当化する根拠としては不十分で、保育実施を受ける利益を尊重したものとは到底言えない。
 よって、市が04年4月に民営化を実施したことは裁量を逸脱し、違法と認められる。
 【判決の理由】
 本件民営化は違法と解され、処分を取り消すのが原則である。しかし、4園が廃止されて2年が経過し、処分を取り消しても従来の保育環境は復活しない。また4園では新たな保育環境が形成されており、処分を取り消すことは無益な混乱を引き起こすことになりかねない。そこで改正条例制定が違法であると宣言するにとどめ、原告らの取り消し請求は棄却する。
 【国家賠償請求の成否】
 原告の保護者らは民営化が実施され、引き継ぎが十分でなかったことなどから、児童の保育環境悪化を心配し、心を痛めた。こうした精神的苦痛を慰謝する額は、1世帯につき金10万円を認めるのが相当である。原告の児童は精神的苦痛を把握することが困難なため、請求を棄却する。

5月23日朝刊(毎日新聞) - 5月23日12時1分更新

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この記事へのコメント

hana_usagi
2006年05月25日 03:00
裁判、勝ちましたね。私の周辺でも、話題になっています。
じゃあこれからは時間をかけて民営化していくんですね。と思ってしまう私は、ひねくれものです。
ある市でも、民営化が決まり、委託された団体が新園舎建設のための募金を集めています。民営化を反対していた人たちから募金を集めようとしていましたが・・・なんだか・・・違うような・・・
いくら集まったんだろう?なんて、下世話なことを考えてしまいました。
裁判は勝ったけど、この問題の本質を間違えることなく、進んでいけることを願っています。

「本質を見極めろ!!」
dr.stonefly
2006年05月25日 05:14
「本質を見極めろ!!」
全くその通りだと思います。今回の「引継期間」が焦点の裁判もそうですが、現場の保育園等でも「給食室撤廃」など、具体例の方がクローズアップされているような気がします。
もちろん、具体例も大切なのですが、それを聞いた親の方も、個々の価値観で「それは大したことではない」と判断されることもあるようです。
「保育園」「保育」と本質がなんであるかを確認しなければ、「子ども」が置き去りになることを、「親・保育士」も覚えておかなければならないと思います。
 「民営化したうえの募金」の話、笑わせていただきました。アホクサー(笑……(涙……(怒……
松富毅
2006年09月09日 18:08
初めまして。私は静岡県田方郡函南町で公立保育園である、東部保育園の父母の会の会長を務めています松富と申します。じつはこの函南という街でも横浜市と全く同じ事が起ころうとしています。なんとかして阻止したいと思い活動をしていますが、ここにある内容の通り行政はまったく話になりません。そこで函南町でこの横浜市で裁判で多々かたかた型に講演会を開催していただきたいと考えています。もしこのコメントを見た方で横浜市で活動していた方とコンタクトがとれるかたがいましたら連絡を下さい。よろしくお願いいたします。
bya05025@nifty.com
松富毅
函南町立東部保育園 父母の会会長
dr.stonefly
2006年09月10日 00:54
松富毅さん、はじめまして。
活動おつかれさまです。
講演依頼の件、あたらしい記事でも呼びかけてみますね。

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